100000HIT謝恩企画・つんたさんちの棚からボタモチを強奪してきました

Killing Softly With His Song


「またか」

塔矢行洋は息子の変人ぶりにあきれていた。いや、ここまでへたれキャラとは思わなかったのだ。相手があの、日本棋院随一のちょーーーー天然キャラの進藤ヒカルだとしても。性別はともかく、と言うのは、アキラがあまりにも碁盤と碁石を熱烈に愛するものだから、一生、人間に見向きなどしないものと思っていたからだった。

 「その見方は、あなた、問題があるのではありませんか」

明子夫人はそう言うが。

 「いや、あのアキラだぞ」

その言葉に納得してしまうところがこの夫婦の悲劇と言えば悲劇だ。

 「かわいそうな進藤君」

あんなものに惚れ込まれて。そう思うのは、親としてどうかと思うが、自分たちの変人ぶりが二乗された息子なのだから仕方あるまい。

 

で。こちらは進藤家。

 「…おまえ、趣味わりいなあ…」

それでいいのか、進藤正夫。

 「ほんとね。正夫さんも私も確かに悪趣味だけど、おまえほどじゃないわ」

何なんだ、この親は。

 「あの…」

 「何驚いてんだよ、俺が変なのに追っかけ回されているのは、知ってるじゃんか」

 「そうだよね」

長いこと海外赴任していた正夫には変な友人がいる。美津子に下剤飲まされて駆除されている友人だ。

 「へーちゃんはいいのよ、共同戦線張れるものね」

 「は、それって」

 「彼がいれば、余分な女が近付かなくて私にはいいのよ」

 「おれは容易じゃねえけどな」

 「あなたは黙っていて」

 「はい」

カミングアウトしたのに、マジに取ってくれないってのはどういうことだ。

 「ヒカル、よーく考えなさいよ、外にばれたらタダじゃ済まないのよ、いいわね。あんたね、主導権はどっちにあるの」

 「たぶん、塔矢」

 「ふーん、なるほどね。普通、こういう事は娘に伝授することだけど、まあいいわ。あんたに仕込んでおけば間違いないわね」

 「な、何を…」

 「亭主の操縦術に決まっているでしょ」

そ、そんなもの…教わった方がいいのか…、おい。

 「みっちゃん…」

 「拒否権はあんたにあると見たわ。外に出そうになったら、お芝居するのよ、切れてもいいのかってね」

 「へっ…」

 「あの子、そーとーへたれだから、大丈夫よ、それで、明子さんに連絡取りたいんだけど、電話番号とかあんた、知らないかしら」

 「お、おかあさん…」

 「知っているなら、よこしなさい」

 「ちょっと待って…」

携帯電話を操作し、滅多にかけない明子の携帯の電話番号を見つけ出す。美津子はそれを自分の携帯に入力した。

 「これでよし」

 「お父さん…」

 「まあ、がんばれよ」

 「だってうち、一人…息子だろ」

 「何、常識的なこと言ってるの、海外で育った割にはあんたって駄目ね」

 「家の事はどうだっていいんだよ」

正夫はにやりと笑った。

 「なんで…」

 「どうってことないさ、みっちゃんよりへーちゃんの方が先だっただけだもんな」

 「どえぇぇっ」

さらりと恐ろしい事を口にした正夫はスーツケースに服を詰めていた。

 「一月、出張だ」

 「へーちゃんに連絡したの」

 「あいつんちにいるよ、心配するな」

息子の目の前でキスして夫婦は笑った。

 「そーね」

ヒカルは腰が抜けたままだった。どーりで、どおりで…動じないわけだ…。

 

 

 「あっらあ、進藤君の。まあっ、ミュージカルのチケット。素敵ねえっ」

明子のうきうきした声に行洋は溜息をついた。横でアキラも溜息をついている。

 「アキラ、まともなご飯食べたければ、早く進藤君のところに行きなさい」

 「でも、まだいいって言ってくれないんです」

 「何したんだ、おまえは」

 「何も」

いや、絶対にした。下手な事をした。確信してもいい。賭けてもいい。絶対にアキラはへまをしたのだ。

 

 

 「ねー、おかあさん、こんなもんでいいの」

 「まだ気付いてないのね、アキラ君も駄目ね」

美津子の魔物じみた笑顔にヒカルは顔を引きつらせた。

 「あと一押しね。決定打が足らないわ」

 「そうかなー」

 「なんで、おまえにいて欲しいのか、アキラ君、教えてくれたの」

 「いつでも打てるからだって」

美津子は溜息をついた。

 「…そんなんじゃあんたをあげられないわ。まだ許可出しちゃ駄目よ」

 「さようですか」

 「馬鹿ね、愛してるって言われなきゃ一緒に暮らしている意味ないのよ」

美津子に家事を仕込まれながら、ヒカルはその言葉に頷いていた。

 「煮物ってこんなものでいいのかな」

 「ま、よしとしましょう。初めてにしてはなかなかじゃない。あー性別、間違えれば良かったのに。今頃孫がいたのにねえ」

ぶっ。そこまで知っているなんて…ひどい。ヒカルはただ、ただ、黙って味見をしていた。

 

 

                                       おしまい。

 



 つんたさんの世界観が濃厚に盛り込まれたギャグ短編です。

 ええもんもろたわぁ。つんた姐さん、ありがとうございます♪

 ここで解説を少々。

 正夫さんはピアニスト、美津子さんは声楽が専門。天然な音楽家というレアな設定。

 アキラさん→ヒカルさんで、天然なヒカルさんもアキラさんのことを憎からず思っているようです。

 ヒカルさんの両親もアキラさんの両親も、なかなかの変人で、ふたりを肴に大騒ぎ。

 作中に名前が出てくる「へーちゃん」は、ヘルベルトさん。ウィーンの中年ヴァイオリニストです。

 正夫さんに迫ったため、美津子さんに下剤を盛られたという暗い過去(笑)を持つ人です。

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