くつみがきさまからのリクエスト作品
THE・ペア碁 −お色気美女にご用心!−(前編)
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「進藤! 進藤! 進藤ーっ!!」 「なんだよ、塔矢。朝っぱらから騒がしいヤツだな」 「あれは本当なのか!? お、おが、緒方さんと……」 「んあ? ああ、もう知ってるのか」 「進藤! キミは正気なのか!? ボクという者がありながら、どうして緒方さんなんかと!? キミとボクは、恋人同士じゃなかったのか!?」 「ばっ/// バカヤロー! 恥ずかしいこと言うんじゃねえっ! ……だいたい、おまえが悪いんだぞ。オレに、なんにも言わなかったじゃんか。まわりはどんどん相手を決めてってるっていうのに。だから……緒方さんに声をかけられて、そろそろ潮時かなと思ってさ」 「ふざけるなっ! キミと生涯を誓い合い、ウェディングベルを高らかに鳴らすは、このボクだ!」 「勝手に突っ走るんじゃねえよ。だいたい、おまえは大袈裟すぎるんだよ。単に、ペア碁のパートナーになっただけだろーが」 塔矢アキラ19歳。 進藤ヒカル20歳。 数年前の囲碁雑誌の取材がきっかけで、ふたりは、いわゆる「おつきあい」を始めた。 ……というより、アキラがヘタレ街道をひた走って、ヒカルを泣き落としたようなものなのだが。 あの取材のあと、ヒカルが自分を異性として意識してくれたことに気づいたアキラは、一気に勝負をかけた。 その内容たるや、あまりにお粗末、いや、むしろ涙を誘うと言ってもいいだろう。 他者に先んじたところまでは及第点。 だが、TPOをわきまえずに「進藤! 好きだ!」を連呼するというのはいただけない。 こういうものは、ここぞという時に、決めゼリフとして一度だけ言うからこそ、威力を発揮するのであって、年がら年中叫んでいたのでは、興ざめもいいところだ。 ヒカルに邪険にされてもウザいと蹴られても、「進藤! 好きだ!」。 月曜の朝も、水曜の昼も、金曜の夜も、「進藤! 好きだ!」。 とうとう、ヒカルが折れて、めでたく「おつきあい」は始まったのだった。 おさななじみの少女に報告したときの、「塔矢とは長いつきあいだし、犬でも3日飼えば情が湧くっていうし……」というヒカルの投げやりな言葉を、アキラは知らない。 さて、その「うれしはずかしおつきあい」だが。 アキラ→ヒカルという愛情のたれ流し加減で、まるくおさまっているかというと、実際には、そういうわけでもないようだ。 性格の不一致というか、互いに個性豊かというか。 意見の食い違いは日常茶飯事、すぐに小学生レベルの怒鳴り合いに発展してしまう毎日を送っている。 今回は、ペア碁のパートナーの件で、もめているらしい。 ペア碁といえば、「アホー杯」が有名だ。 囲碁愛好家のあいだでの人気や、前年度の棋戦の結果をもとに、男女それぞれ32名の棋士が、参加選手として選ばれる。 そして、厳正なる抽選(くじびき)のもとに、パートナーが決定されるのだ。 だが。 今、ヒカルとアキラが話題にしているのは、その「アホー杯」ではない。 今年から始まることになった「日本ボードゲームフェスティバル」の一環として行われる、日本棋院所属棋士によるペア碁大会のエントリーについてだ。 こちらは「アホー杯」よりも、さらにお祭りの意味合いが濃く、参加不参加は、棋士たちの自主性に任されている。 棋士同士で好き勝手に相手を決め、期日までに事務室でエントリーを済ませるという形式は、まるでダンスパーティーかなにかを想像させる。 実際、目につきやすいようにと、棋院会館の4階より上の壁に貼られた職員の手作りポスターを、棋士たちはみな、眩しいものを見るかのように見つめていた。 これが本当にダンスだったら、得手不得手が分かれるところだが、碁ならばまったく問題ない。 初段だろうが九段だろうが、誰もが自分の碁には少なからず自信を持っているのだから。 以来、男性棋士たちは、意中の女流に声をかけるタイミングを計り始め、女性棋士たちは、声をかけられるのをそわそわしながら待つようになったわけである。 そして、話は冒頭に戻る。 ヒカルは、アキラに誘われるのを待っていたが、いつまでたっても、アキラは声をかけてこない。 ヒカルと親しい奈瀬や桜野は、院生時代からのくされ縁の和谷や、九星会つながりの伊角から、とっくに申し込まれているというのに。 売れ残ってしまうのを心配するような性格ではないが、せっかくの楽しそうなイベントに参加できないのはつまらない。 参加申し込みのしめきりは、3日後に迫っていた。 緒方に声をかけられたヒカルが、二つ返事で承諾したのも、無理からぬ話だった。 ………………光陰矢の如し。 あっというまに時は流れ、そのペア碁の大会は、ヒカル&緒方ペアの優勝で幕を閉じた。 アキラはというと、低段の中年女性棋士と組んで出場したが、惜しくも準決勝で敗退してしまった。 さて。 実は、ここまでは単なる前振りだったりする。 優勝祝賀会というよりは、酔っ払いだらけの打ち上げ会場と化した居酒屋の一角で、スポンサーのひとりがもらした一言から、真の物語は始まるのである。 碁界というところは、タイアップや支援など、企業の協力なくしては成り立たない。 プロのタイトル戦のスポンサーから、アマチュア向けのイベントの主催や共催など、その果たす役割は大きい。 そして、各企業の担当者は、一部の例外を除き、囲碁愛好家であることが多い。 たとえ、囲碁を知らない者が担当になったとしても、すぐに碁の魅力に惹かれるようになる。 北斗杯の例をあげる間でもないだろう。 棋戦ばかりでなく、その打ち上げのスポンサーも兼ねている彼らは、当然、その席に参加している。 プロ棋士ばかりの宴会に加わることができるというのは、まさに役得といったところなのだが…………どうやらほどよく酒が入り、プロ棋士との碁談義よりも、少々下世話な方向に興味が移り始めているようだ。 「そういえば……来週は、世界アマチュアペア碁選手権ですね」 「もうそんな時期ですか。あの大会は華やかですからねえ。楽しみですな」 「とくに女性の衣装が……むふふv たまりませんなあ」 「そうそう。あのむっちりしたナイスバディvvv……まさに目の保養ですよ」 彼らが話しているのは、毎年、秋の終わりに東京で開催されるアマチュアの国際棋戦についてだ。 彼らの言う「むふふv」とか「たまりませんなあ」とかいうのは、この大会のために海外からやってくる女性の衣装の露出度の高さのことである。 それぞれのペアは、男女で色調やデザインをあわせた個性的な衣装を着て出場する。 各国の代表として来日するだけに、それはもう気合いの入った華やかさだ。 近年は、アマチュア棋界でも、若手の台頭が目立っている。 つまり、若くてナイスバディなお姉さんたちが、大挙して押し寄せてくるというわけだ。 彼女たちの戦いは、碁だけではない。 もうひとつの戦いがあるのだ。 それは……美の競演。 美しさの基準はそれぞれだが、彼女たちは、どうやら「お色気」に重きを置いている傾向があるようだ。 ゆえに、ギャラリーの目に豊満かつ瑞々しく映ることを意識して、デザインに意匠を凝らすのだ。 「来週のアマチュアペアの優勝組と、今日の優勝組である緒方進藤ペアの、ペア碁対決なんてどうでしょう」 「ほう。おもしろそうですねえ。うちの社が、いくらかお手伝いできますよ」 「進藤女流本因坊も、最近、オトナの色香が出てきましたからな。ぜひ、露出度の高い服を着たところを見てみたいものです」 「当社では、こういった企画の資金管理は、わたしに一任されていますので、存分に援助できますよ。ぜひとも実現させましょう、海外のムチムチ美女と進藤女流本因坊のお色気対決」 「大賛成です。うちでも、多少は用意があります」 「さっそく、棋士会長さんに進言してみましょう」 酔っ払いのスケベおやじと化したスポンサーたちの提案は、おなじく変態酔漢と変貌を遂げた棋士会の重鎮たちによって、すぐさま、具体的な内容の検討へと移っていった。 一時間後。 予算や日時や場所などの基本的事項から、宣伝やテレビ中継の段取りなどの詳細に至るまでのすべてが、あれよあれよという間に決定したのだった。 「へえ〜。アマチュアの優勝ペアと対戦かぁ。おもしろそう♪ やるやるー、やりますー」 出場依頼の電話を受けたヒカルの反応は上々。 こういうお祭り騒ぎは大歓迎なヒカルだ。 だが。 「へ? 衣装?」 ヒカルの目が点になった。 「はあ〜〜〜〜??? 緒方先生が特注したあ〜? オレの分も???」 点になった目を、今度は大きく見開いた。 口まであんぐりと開けて、ヒカルは数秒のあいだ固まった。 そして、なんとか気を取り直し、「当日、よろしくお願いします」という常套文句を唸るようにつぶやいて、電話を切った。 「…………緒方先生特注の衣装ねえ……。なんか、イヤ〜な予感がするんだよなあ」 こういう予感は、得てして的中するものだったりする。 つづく |
「ペア碁」と聞いて、アキラさんとヒカルちゃんのペアを想像したみなさま、ごめんなさーいv
リアル碁界の最強夫婦(2006年2月現在・当サイト調べ?)のように、敢えて別のパートナーと組んでもらいました。
しかし、「アホー杯」ってのはどーよ、自分。
2006年2月25日
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