薫風に寄せて

   ゆずまるさまからのリクエストで書かせていただきました


   お戻りの際は窓を閉じてください






 風薫る5月。

 一年で最もさわやかで晴れやかな季節。



 いつからだろう。

 ボクが、この季節を…いや、この日を厭うようになったのは。

 新緑に映えるこいのぼりが

 薫る風をはらんで、大空に舞うこの日を。






 まもなく本因坊戦が始まる。

 彼は今年も防衛するだろう。

 天上なる碁の神に魅入られた彼は……。






 そう。

 あれは、まだ自然に言葉を交わすことさえ叶わなかった少年の頃。


    いつか話すかもしれない


 そうつぶやく彼の後ろ姿に、心が騒いだ。



 やはり、誰かいる。

 彼とともに碁を語る誰かが。






 それは、ボクでありたいと思っていた。

 神の一手をともにめざすのは

 人としての生をともに歩むのは

 ボクでありたいと、ずっと願っていた。






 やがて、ボクたちは一緒に暮らし始めた。

 一緒に住めば、いつでも打てるよ…と、甘美な言葉でボクから誘った。



 最初はただのルームメイトだった。



 そして今

 ボクたちはひとつのベッドで眠っている。






 彼の唇が愛の言葉を紡ぐことは少ないけれど

 羞恥に染まる彼の頬が、なによりも雄弁に語っている。


    塔矢、好き…


 夜が更けるまで身体をつなぎ

 夜が明けるまで抱きしめあって眠る。






 ともに神の一手をめざし

 ともに人生を歩む存在。

 誰よりもそばにいて

 お互いを高めあえる存在。






 だが今日だけは

 彼はボクのそばにいない。






 毎年、5月5日になると

 彼は白い花束を買ってくる。

 頼りない幼いこどものような顔をして。



 普段はしまいこんだままの桂の碁盤を出してきて

 いつもは使わない自分の部屋で、棋譜を並べて過ごす。



 そこは、たった一枚のうすいドアで護られた

 誰も踏み入ることを許されない、彼だけの空間。







 彼が白い花束を持って、どこかに出かけていったならば

 ボクの知らないところで、故人を偲んでいたならば

 ボクは彼に問いただしたかもしれない。



 でも、彼はここにいる。






 だから。

 今日だけは、彼をあの人に譲ろう。






 明日になれば、彼はまた、ボクの腕の中に帰ってくるのだから。

 明日になれば、本因坊の顔になって、彼は帰ってくるのだから。






 ……そうは言っても。

 ああ。

 なんと忌々しい日なのだろう。








   初めてのシリアスです。

   ゆずまるさまからのリク内容は「佐為を偲ぶヒカルと、それを見て悶々とするアキラ」でした。

   凝りもせずに、蛇足ページを作りました。よろしかったらご覧くださいませ。→こちらからどうぞ




   2005年4月15日


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