ふぇありー☆てーる(3)
綾瀬玲菜さまからのリクエストで書かせていただきました
お戻りの際は窓を閉じてください
わらしべコルク栓と交換して…つまりタダで手に入れた炒り豆を、ヒカルはぽりぽりと軽快な音を立てて食べ続けていた。 「これって、あと引くんだよな〜」 わらしべ長者になるための必須アイテムを、次の品物と交換する前に、ヒカルは全部食べてしまった。 「ちぇ〜っ。もうないや」 貧乏ったらしく小袋を逆さにして振ってみる。 すると。 ころりん☆ 最後の一粒が、地面の上に転がり落ちた。 「なんだよー。もう1個残ってたじゃんかー」 ヒカルは、未練がましく炒り豆の行く先を目で追う。 拾って食べようという魂胆が見え見えだ。 ところが。 動きをとめた炒り豆から、突然芽が出たのだ。 「うわあぁぁっ!」 ヒカルが驚いて地面にひっくり返っているあいだにも、茎がのびて葉が茂り、立派な豆の木へと成長していく。 豆の木の成長は留まることを知らず、その先端は、すでに雲のかなたに霞んでいる。 「ほえ〜。腹のなかで芽が出なくてよかった〜」 ヒカルは自分の胃のあたりをなでながら、ずれたところで感心した。 なぜ炒った豆から芽が出たのか、とか、なぜ天にも届くほどに急激に成長したのか、とか。 ヒカルは、その手の探究心を持ち合わせてはいなかった。 だが、無鉄砲なほどの好奇心は、しっかり持っていたようである。 「よしっ! のぼってみよう!」 ヒカルは大きな豆の木にしがみつくと、元気よくのぼり始めた。 「ふう。だいぶ高いとこまで来たみたいだなあ」 眼下に広がる、文字通り豆粒のように小さくなった世界を見下ろして、ヒカルは、ほっと一息ついた。 ここから先は、いよいよ雲の上の世界だ。 すぐそばにせまったふわふわした雲のなかに、ヒカルは頭を突っ込んだ。 「あれま、お客さんだよ」 「ほんとだ、ほんとだ」 「この忙しい時に」 雲のなかでは、雀たちが豆粒をかごに入れて、忙しそうに働きまわっている。 なぜ雀がかごを担いでいるのか、そんなことに興味をもつヒカルではない。 当然のごとくスルーだ。 「なんか忙しそうだな」 ヒカルのつぶやきに、律儀にも一羽の雀が答える。 「さっき、雲のなかにいきなり豆の木が突っ込んできたんだよ。見れば、ぱんぱんにふくらんだ見事な実がなってるじゃないか。さやから取り出したり乾かしたり、そりゃもう大わらわさ」 「へえ。あの豆、実がなったんだ」 ヒカルの言葉に、雀たちの動きがとまる。 突然の大収穫をもたらした恩人さまの登場だとばかりに、ヒカルをもてなし始めた。 パンや果物など、いったい空の上のどこで入手したのかと疑問に思うような食べ物が、次から次へと出てくる。 だが、当然、ヒカルはスルー。 かわいらしい雀たちの歌や踊りも披露され、ヒカルはそれなりに楽しんだ。 単なる偶然の産物に対して、ここまで礼を尽くされては、ヒカルとしても少々居心地がよくない。 「オレも、なんか手伝おうか?」 ヒカルが珍しく自分から労働意欲を示したその時。 雀たちは一斉に逃げ出した。 「な、何があったんだよ」 ヒカルの問いに、一羽の雀が逃げながら答える。 「巨人が帰ってきたんですよ」 「巨人!?」 「金角・銀角という双子の巨人です。……ああ、あなたも隠れてください」 雀にうながされ、ヒカルは豆の木のかげに隠れ、こっそりと巨人たちのようすをうかがった。 雀にとっては巨人かもしれないが、人間であるヒカルにとっては、あまり大きくは見えない。 「なあ。あいつらって、そんなに悪いヤツなわけ?」 「人間の世界に行っては農作物を盗んでくるんです」 ……そのおこぼれで生きているわけだ。君たちは。 「巨人が盗んできた米俵のなかに、一羽の雀がまぎれこんでいました。それがわたしたちの先祖です」 「わたしたちは鳥ですが、こんなに高いところから、地上まで飛ぶことはできません」 「巨人の食料をこっそり持ち去って食べつないでいますが、見つかると、舌をちょんぎられてしまうのです」 雀たちの話を聞いて、にわかに正義感に目覚めたヒカルは、 「オレが退治してやる。あいつらの弱点って、なんかないのか?」 と腕をまくる。 「蓋のついた入れ物に閉じ込めれば、出てこられないという言い伝えがあります」 「名前を呼ばれて、返事をすると、その入れ物に吸い込まれてしまうとか」 雀たちの情報に、ヒカルは「なーんだ、簡単じゃないか」と請け負う。 「簡単じゃありませんよ。わたしたちは言葉が話せないんですから。ちゅんちゅん…じゃ、名前を呼んだことにはならないでしょう?」 「へ? だって、今、話してるじゃん」 驚くヒカルに、雀はさらっと答えた。 「何を言っているんですか。あなたが雀の言葉を話しているんですよ!」 どうやら、さっきの炒り豆に秘密があったようだ。 だが、ヒカルは、当然ス…以下略。 「ま、いっか。そんじゃ、さっそく適当な入れ物を探して…っと」 炒り豆の謎を「ま、いっか」の一言で片付けると、ヒカルはきょろきょろとあたりを見まわした。 ちょうどいいところにふたつの碁笥がある。 「へえ。あいつらも碁打つんだ。……でも、まあ、乗りかかった船だし、な」 乗りかかった船程度の理由で成敗される巨人には気の毒な話だが、ヒカルは迷わず巨人の名を呼んだ。 「金角〜っ!」 「おう」 「銀角〜っ!」 「なんだー」 しゅるしゅるしゅる…と、巨人はあっけなく碁笥のなかに閉じ込められてしまった。 「おかげで助かりました。本当になんてお礼を言っていいのやら」 雀たちはふたつのつづらを運んできて、ヒカルに贈りたいと申し出た。 「大きなつづらと小さなつづら。どちらをお望みでしょうか」 普段のヒカルなら、当然大きなつづらを選ぶところだ。 だが。 「うーん。まずはここから降りなきゃなんねーからな。大きいほうをもらったら、邪魔になるし。ちっちゃいほうでいいや」 ヒカルは小さなつづらを受け取ると、 「そんじゃあ、帰るとすっか。この木にとまりながらだったら、みんなも降りられるだろ?」 と、雀たちを従えて、地上へと向かったのだった。 |
ジャックと豆の木・西遊記・舌切り雀。
あと5個ですか。
「出せばええってもんやないやろ」という玲菜さまのお叱りの言葉が聞こえてきそうです。とほほ。
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