ふぇありー☆てーる(4)
      
綾瀬玲菜さまからのリクエストで書かせていただきました

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 雀たちと別れてから、ヒカルはつづらをあけてみた。

 中身は果物の詰め合わせだった。

 病院に見舞いに行くときに使われる、高級なものだ。

「うまそ〜v」

 さっそくひとつ…とばかりにヒカルが手をのばしたところへ、「もしもし、そこの若い方…」と、声をかける者がある。

 二度あることは三度ある。

「また魔女かよ」

 ヒカルは興味なさげにつぶやいた。

 今回現れた魔女は、となりの国の王妃だったりするのだが。

「おいしそうな果物だねえ。どうじゃ、この魔法の斧と交換せぬか?」

 その斧を湖に投げ込むと、水の精霊が現れて、もれなく金の斧と銀の斧をプレゼントしてくれるというのだ。

「この世界一美しい布はどうじゃ」

 綾錦と呼ばれるその白い布は、鶴の羽を使って織った…いや、鶴が自分の羽を抜いて織ったとの言い伝えがあるそうだ。

 わらしべ長者へと続く道が、再びヒカルの前にひらけた。



 ヒカルはしばし考えた。

 重たい斧を担いで旅をするのは面倒くさい。

 白い布は綺麗だけれど、汚さずに持ち歩く自信がない。

 そして何よりも。

 ヒカルは、魔女の下卑た薄笑いが気に入らなかった。

(こいつ、うさんくせー。目がイっちゃってるよ)

 ヒカルは、自分の第六感を信じた。



「オレ、なんにもいらねえ。どうせ、この果物、タダでもらったもんだし。……これ、やるよ」

 ヒカルはそう言って、真っ赤なりんごを手渡した。

「じゃ、オレもう行くわ」

 そう言って魔女に背を向けたヒカルは気づかなかった。

「このりんごに毒を塗って、白雪姫に…」

 と、魔女がにんまりと笑っていたことに。





 夕暮れも近くなった頃。

 ヒカルは、峠道を歩いていた。

 道端の小川で、水を飲もうとかがみ込んだとき、水面に赤いずきんが映った。

「うわ、だっせ〜」

 こんなへんちくりんな物を、今までかぶっていることすら忘れていた事実に腹が立つ。

 ヒカルがずきんを投げ捨てようとしたとき、あるものが目に飛び込んできた。

 六地蔵である。

 そのうちの五体は、きちんと笠をかぶっているが、残りの一体は、石の坊主頭をそのままさらしている。

「ちょうどいいや。お地蔵さんにあげよっとv」

 ヒカルは、赤いずきんを地蔵の頭にかぶせた。

「おっ。わりと似合ってんじゃん」

 ヒカルは満足げにうなづくと、その日のねぐらを求めて歩き始めた。



 無人の納屋のなかに、ふかふかの干し草が積まれているのを見つけて、ヒカルはそこにもぐり込んだ。

 眠りに落ちる直前、ヒカルは舞踏会のことを思い出していた。

「アキラって言ったっけ、あの王子さま。あいつどうしてるかな。いつか、また打ちたいな…」

 ごちそうのことではなく、アキラのことに思いを馳せるヒカルに、今後の期待が持たれる。


 だが、翌日。

 納屋の入り口に、たくさんの食べ物が置かれているのを見つけたヒカルの頭からは、アキラのことなど、すっかり抜け落ちていたのだった。






 その頃、城下ではある騒動が起きていた。

「ヒカルちゃん探索部隊」の地道な活動だけでは満足できないアキラの指示で、各村の広報板に詰碁の問題を掲示していたところ、動きがあったというのだ。

 詰碁がかかれた棋譜掛紙に、ぞんざいに○印がつけられ、しかもそれは正解だという。

 どこかの部員勧誘を彷彿させるその騒動は、想像通りの結末を迎える。

 かきこみをしたのは、外ハネの髪と猫のような目つきが特徴の少年。サスペンダーがトレードマークだ。



「おとなしく城のなかで待っているだけなんて、もう限界だ!」

 報告を聞いたアキラは、自らヒカルを探す旅に出る決意を固めた。

「生水には気をつけるのだぞ」

「しっかりね、アキラさん」

 ずいぶんと庶民的な両親の言葉に見送られ、アキラは馬上の人となったのであった。






 そして舞台は再びヒカルサイドへ。

 ヒカルは、国境の川岸へとやってきた。

 遥か彼方に向こう岸が見える。とてつもなく広い川幅だ。

「泳いでいくしかないかなあ」

 だが、流れのあいまに、ワニがうようよ漂っているのが見えた。

「……やめとこ」

 ヒカルは引き返しかけたが、なにやらひらめいたようすで、ワニに話しかける。

「おーい、ワニさん」

「なんだ、おめえ。ワニの言葉が話せるのかい」

 一匹のワニが、ヒカルのもとへと近づいてきた。

 炒り豆のソロモン効果は、まだ有効らしい。

「ワニさんたち、ずいぶんたくさんいるんだな。どのくらいいるのか、数えたことある?」

「いや、そんなこと、気にしたこともない」

「ええーっ! 自分たちの仲間の数を知らないなんて、そりゃヤバいよ」

 ヒカルの口車に乗せられて、数分後、ワニたちは、ずらりと一列に整列させられていた。



「それじゃあ数えるよ。いーち、にー、さーん…」

 ヒカルは、ワニの背中をぴょんぴょんと飛び歩き、向こう岸へと渡り始めた。

 まもなく川を渡り終わろうというその時、一匹のワニがヒカルに話しかける。

「おい、今どこまで数えた?」

「へ? あ、オレ、向こう岸に渡るのが目的だったから。途中で数えるのやめちまった。きしし」

 ある意味、正直者であるヒカルは、非常にナチュラルに答えた。

「なんだとおーっ!」

「てめえ、騙しやがったな!」

 怒ったワニたちに身ぐるみをはがされ、ヒカルはやっとのことで川を渡りきったのだった。






「ふえっくしょい!」

 すっかり身体が冷えてしまったヒカルは、何か着る物はないかと探して歩いた。

 すると。

 木の枝に、見たこともないエキゾチックな衣装がかけられているのが目にとまった。

 やや薄手で、透明感のある上品な生地。

 太陽の光をあびて、淡く虹のようにゆらめくその色づかいは、ヒカルの好むところではなかったけれど。

 この際、わがままは言っていられない。

「誰かの忘れ物かな。ちょっと借りちゃおっと」

 ヒカルは衣装をまとうと、

「腹減ったな〜」

 と、食料を探すため、その場をあとにした。


 水浴びを終えた天女が、「あの羽衣がないと、天に帰れない」と、泣くことになるのだが。

 そのときのヒカルには知るよしもなかった。



白雪姫・かさじぞう・いなばの白うさぎ・天女の羽衣。

よっしゃ、あとひとつ♪

ラストはもう決まってますから、このまま突っ走ります。


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