ふぇありー☆てーる(1)
      
綾瀬玲菜さまからのリクエストで書かせていただきました

お戻りの際は窓を閉じてください




「それじゃあ、ヒカル。わたしたちは舞踏会にでかけてくるから。おまえは、しっかり留守番してるんだよ」

 2人の姉娘と継母は、イヤミなくらいに着飾って出かけていった。

 今日は城で舞踏会がひらかれるのだ。

 年頃になった王子の結婚相手を探すための盛大な催し物で、城下に住まう妙齢の娘ほぼ全員に、まるで宣伝ビラのごとく招待状が配られたという。

 一国の后を決めるのに、ずいぶんとお手軽な方法をとったものだ。

 まあ、ひらかれた王室と評価できなくもないが。





 さて、一方。

 ヒカルと呼ばれた強制居残り組は。

「あーあ。ねーちゃんたちはいいよなー。オレだって、ごちそう食べたいよ」

 つぎはぎだらけの粗末な服を身にまとい、あまり好きではない、いや得意ではない拭き掃除をしながら、ぶつくさと文句を言っている。

 実の母親が天に召され、父親はヒカルのために新しい母親を…との思いで、人づてに再婚相手を紹介してもらった。

 だが、やってきたのは、ふたりの娘を連れた意地悪な中年女であった。

 わがままな義理の娘たちと、根性のまがりくさった新たな伴侶にショックを受けて、ヒカルの父親は病気になり、先年、この世を去っていたのだった。

「とーちゃんもだらしねーよなー。神経ほそすぎだっつーの」

 ヒカルが、他界した父親を懐かしんで、だが天性の口の悪さで痛烈にこき下ろしていると、にわかに窓の外が明るくなった。



「な、なんだ?」

 ヒカルが外へ出てみると、いかにも…といった感じの年老いた魔女が立っていた。

「おまえさんも舞踏会へ行きたいんじゃろ?」

 魔女にきかれて、ヒカルは即答した。

「行きたいっ! すっげーごちそうが出るんだろ? オレだって食べたいよっ!」

「それならば、おまえさんの望みをかなえてやろう」

 魔女はそういうと、手にした杖をヒカルに向かって一振りした。

 すると。

 目もくらむような光に包まれたのち、ヒカルの服装は一変していた。


 レースやリボンをふんだんに使ったシルクのドレス。

 その淡いピンク色のドレスをふんわりと膨らませる純白のパニエ。

 大粒の真珠が首元を飾り、髪には宝石が散りばめられた銀のティアラ。

 ヒカル自身も実はなかなかよい素材であり、どこから見ても、ぴかぴかのお姫さまだ。


 満足そうにうなずく魔女を尻目に、ヒカルはげんなりとため息をついた。

「げえ〜。なんだよ、このカッコ…」

 かなりの美少女ぶりなのだが、ヒカル自身はお気に召さないらしい。

「イヤならやめておくか? だが、ごちそうはなしじゃぞ」

 食べ物に釣られ、ヒカルはしぶしぶながら了承した。

 そして、魔女が再び杖を振るうと、家の壁伝いに走っていたネズミが馬に、薪のそばに転がっていたカボチャが馬車に、それぞれ変化した。

「……もとの正体知ってると、これに乗るのって、かなりビミョー…」

 もとはカボチャであった馬車に、ヒカルは足元を確かめながら、おそるおそる乗り込んだ。



 魔女は馬車の窓から、ヒカルに舞踏会の招待状を手渡した。

 私文書偽造…いや、王室発行のものだから、れっきとした公文書偽造である。

「よいか。真夜中の0時を過ぎると、魔法はとけてしまう。0時の鐘が鳴り終わる前に、必ず戻ってくるのじゃよ」

 魔女の言葉にヒカルがうなづくと、馬車は城へと走りはじめた。

 ……御者もいないのに。

 まったくもって、魔法とは都合のよいものである。





 さて、城についたヒカルは、偽造された招待状を疑われることもなく、まんまと大広間に入り込んでいた。

 念願のごちそうを口いっぱいにほおばり、ご機嫌そのものである。

 身なりもよく、黙って立っていれば絶世の美少女なのだが、逆に、その行動がミスマッチで、愛くるしい魅力を振りまいてもいた。

 そんなヒカルの姿を、壇上の国王と王妃が目に留めぬわけがなかった。

 王子をうながし、あの娘に声をかけてきなさいと厳命を下す。

「今のボクには、碁より大事なものなんてないのに…。お父さんもお母さんも、ボクの意思なんて、まるで無視なんだから…」

 やれやれとため息をつきながらも、孝行息子は席を立ち、テーブルに覆いかぶさるようにして手と口を動かし続けるヒカルのもとへと歩みを進めた。



「やあ。舞踏会へようこそ」

 棒読みのセリフのごとくかけられた言葉に、ヒカルは「んあ?」と振り返った。

すると、そこには、黒髪を顎のラインで切りそろえた、見目麗しい青年が、不承不承という雰囲気をまとって立っていた。

「ああ…。こんちは」

 自分とおなじくらいの年齢であると見てとり、ヒカルはぞんざいに挨拶を返す。

食後のデザートであろうか、その手に握りしめたフォークにはスポンジケーキが突き刺さり、頬には生クリームがついている。

どきん☆

王子は、自分の心臓が、そんな音を立てたように感じた。

(か…かわいいっv)

 おざなりに挨拶を返しただけで、再びケーキを口へと運びはじめたヒカルに、王子はひとめぼれしてしまったのだ。



「あの…。ボクの名前はアキラ。キミは?」

 ベタな自己紹介をして、会話を継続させようと試みる。

「オレ? オレはヒカル」

 口のまわりについたクリームをぺろりとなめながら、適当に返事をする。

 ちらりと見えたそのかわいらしい小さな舌に、アキラの心臓は爆発寸前だ。

「よ、よかったら、ボクと一局打たないか? あ、キミ、囲碁は知ってる? ルールはとっても簡単なんだ。よかったら、ボクが教えてあげるよ」

 アキラ王子よ。

 他に女の子を魅了する口説き文句を知らないのか。

 だが、意外にも、ヒカルは快諾した。

「いいぜ。ちょうど腹いっぱい食ったとこだし。おまえと一局打つか」

「キミ、囲碁を知ってるんだ。うれしいな」

 アキラはヒカルをさりげなくエスコートしながら、大広間をあとにした。



 それを見ていた国王と王妃は、

「あら、アキラさんったら、案外手が早いのねv」

「うむ…。意外だったな」

 と、ことの成り行きを楽しげに見守っていたのだった。





 アキラの自室に招かれたヒカルは、「ふーん、おまえって王子さまだったんだ」と、あまり興味のないようすでつぶやいた。

 そのあっさりとした反応も、地位と財産目当ての娘たちにうんざりしていたアキラにとっては、たいへん好ましいものに思われた。

「それじゃあ、さっそく始めよう。棋力はどれくらい?」

 碁盤の前に置かれた椅子の一方にヒカルを座らせると、アキラは盤面をハンカチで拭きながらたずねた。

 棋具を大切に扱うアキラのしぐさに、ヒカルも好感をもった。

「オレ? けっこう打つぜ」

「じゃあ互先だ。ボクがニギるよ」



 国政についての勉強よりも碁を優先させる、将来の暴君予備軍・アキラ王子は、互先と言いながらも、ヒカルの棋力次第では指導碁に切り替えるつもりだった。

(この国で、ボクより強いのはお父さんくらいだもの…)

 だが、数十手進んだところで、アキラは自分が井の中の蛙であったことを知る。

(すごい…! ボクとおなじくらい打てるなんて…。しかも、古風かと思えば大胆なこの打ちまわし。こんな子が、この国にいたなんて…)

 視野の狭いアキラが感動をおぼえている頃、ヒカルもまたアキラの緻密な碁に感銘を受けていた。

(こいつすげーよ。力技でねじ伏せようとしてるのかと思ったら、実はしっかり計算した上で打ってやがる…。やるじゃんか、王子さまよぉ)



 ヨセまで打って、整地してみると、半目差でアキラの勝ちだった。

「くそ〜。もう一局!」

 ヒカルが再戦を挑み、アキラもそれに応じる。

 幾番か打ち、検討をかさねた頃には、ふたりは既知の友のようになっていた。

 いずれも劣らぬ負けず嫌いで、言い争いになってしまう場面もあったが、互いの主張にうなづけるところもあり、ふたりは時間を忘れて盤を囲んだ。



 その時。

   リンゴーン

     リンゴーン…

 鐘の音が鳴り響いた。

 ヒカルが驚いて壁の時計を見ると、長い針と短い針が、真上をさしてかさなっている。

(真夜中0時を過ぎると、魔法はとけてしまう…)

 ヒカルは魔女の言葉を思い出し、大慌てで立ちあがった。

「ヤバっ! もうこんな時間かよ。……じゃあな、アキラ。楽しかったぜ」

 ヒカルはドレスのすそを両手でまくりあげ、ものすごい勢いで部屋を出ていった。





 外の大階段を駆けおり、馬車に飛び乗ろうとしたところで、鐘の音はかすかな余韻を残して消えていった。

 シルクのドレスはつぎはぎだらけの粗末な服に、馬はネズミに、馬車はカボチャにと、あっけなく戻ってしまった。

「おい〜。ここからどうやって帰れっていうんだよおぉぉ」

 情けなく眉尻を下げて途方にくれるヒカルの叫びは夜の闇へと吸い込まれ、誰も聞く者はなかった。



シンデレラのパクリかよ…と思われた方、あまいあまい。ふっふっふ…v

リク内容確認のメールを交わしているうちに、玲菜さまから奇想天外なアイデアを提案されてしまいました。

詳しくは、完結後の別ページにてv


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