第三話  妄想妄想再妄想






 佐為は、イロモノ傳に書かれているという伝説の秘宝を探し出したら、ご褒美に、人間にしてくれると言いました。

 王様が嘘を言うはずがありません。

 ヒカルは、たいして興味なさげでしたが、アキラには、何か思うところがあるようです。

「人間かあ……」

 アキラは、頭のなかで、最愛の妻が人間になった姿を思い描きました。

 想像というより妄想といったほうがいいでしょう。

 アキラの思い浮かべたヒカルは、一糸まとわぬ生まれたままの姿だったのですから。

 妄想のなかのヒカルは、にっこりと笑みを浮かべて、アキラを手招きしています。

 これは妄想ですから、なんの遠慮もいりません。

 アキラは服を脱ぎ捨てて、ヒカルをぎゅっと抱きしめました。

 幼児よりも不恰好な三頭身ではなく、触覚も翅もない人間の姿。

 思う存分、いとしい妻を抱きしめることができます。

 もちろん、いつもの蝶の姿では、翅が邪魔して困難な体位も楽しめそ(以下略)。

「……悪くないな。いや、むしろイイぞv」

 アキラは、にんまりと目じりを下げて、つぶやきました。








「進藤。王様が困っていらっしゃるんだ。ボクたちにできることがあるなら、手伝ってさしあげようじゃないか」

 さっきまでとは正反対の態度に、「はあ? おまえ、なに言ってんの?」と、ヒカルは呆れ顔です。

「別に人間にしてくれなくったって、オレたちはそれなりに楽しくやってるじゃんか」

 面倒はごめんだという姿勢をくずさないヒカルに、アキラは、そっと耳打ちしました。

「……キミ、人間だった頃、らーめんが好きだったよね」

「え」

 ヒカルは目を見開いて、アキラの顔をじっと見つめました。

 アキラは、訳知り顔で大きく頷きます。

「らーめんかあ……」

 ヒカルは、大きな屋敷に住んでいた頃を思い出しました。

 育ち盛りで、しかも食いしん坊だったヒカルは、よく厨房の料理人にせがんで、おやつにらーめんを作ってもらっていたのです。

 とくに、汁に少しとろみをつけて、骨つきの豚肉をトッピングした排骨麺は、ヒカルの大好物です。

 ヒカルは、ほかほかと湯気をのぼらせるできたての排骨麺を思い浮かべました。









   じゅるる……

 ヒカルは、舌なめずりしました。

「それだけじゃない。小龍包だって焼売だって春巻だって、好きなだけ食べられるんだ」

 アキラの提案に、ヒカルは一も二もなく頷きました。

「そうだよな。佐為が困ってるんだ。手伝ってやるのが人情ってもんだよな」

 てのひらを返したような対応に、佐為は少し驚きました。

 それでも、伝説の秘宝を探してくれるというふたりの心意気に、「ありがとうございますぅ」と、涙を流さんばかりに喜びました。



「それで……伝説の秘宝というのは、いったいどんなものなんですか?」

 アキラは、わざとらしいほど真面目な表情を作って、佐為に向き直りました。

「そうだよ。それがわからなくっちゃ、探しようがないもんな」

 ヒカルも、身を乗り出します。

「それは……」

「「それは?」」

 ヒカルとアキラは、固唾を飲んで、佐為の言葉を待ちました。





……こんなもんで、ひっぱるなよな、自分。

なんか勘違いしてんじゃねえか?





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