ひみつ箱(後編)

お戻りの際は窓を閉じてください







 翌々日の夜。

 ヒカルは、マンションでゴロゴロしながらテレビを見ていた。

「塔矢のヤツ、あの箱、何日で開けられるかなあ。説明書見たって4日かかったもんなあ。なんにも見ないで開けるとなると……何ヶ月もかかっちゃったりして」

 それまで、オレたちオアズケだぜ、にしし……と、ヒカルが笑っていると、インターフォンのチャイムが鳴った。

「はーい」

 インターフォンの画面を覗くと、噂をすればなんとやら、マンションの入り口を背景にしたアキラが見えた。

 デートで遅くなった夜には、律儀にヒカルを送るアキラだ。

 当然、マンションの場所は知っている。

 ひとりで、ここまで来るのは、造作もないことだろう。

 だが、ヒカルの住むマンションは、賃貸ながらもオートロックが採用されている。

 まずは、入り口のガラス扉の鍵を開けなくてはならない。

 備えつけられている操作盤で暗証番号を入力するか、扉の鍵穴に玄関の鍵を差し込んでセンサーに感知させるか。

 そのどちらかで、ドアが開く仕組みになっている。

「し、しし、進藤! こ、ここここ、これ……使ってもいいだろうか……!」

 震える手でカメラの前にかざされたのは、見覚えのある一本の鍵。

「お、オマエ、まさか、二日で……」

「ああ。一昨日の夜、キミと別れてから、不眠不休で取り組んだおかげで、なんとか開けることができたよ」

 徹夜明けとおぼしき真っ赤に充血した目が、画面に映し出される。

 ギンギンに血走っているのは、それだけが理由ではないかもしれない。

「二日徹夜かよ! 無駄にすげえな、オマエ。……まあ、とにかく上がってこいよ。その鍵差せば、入り口のドア開くからさ」

 呆れたように言い放つと、ヒカルは、あわててリビングルームを片づけ始めた。

「やっべえ! 急いで片づけなくちゃ!」

 出しっぱなしのマンガ雑誌や棋譜のファイルを部屋の隅に積み重ね、スナック菓子の空き袋をキッチンのゴミ箱に入れた。

 床の上に乱雑に転がるリモコンを所定の位置に戻して、台ふきんでテーブルを拭く。

 一通り、リビングをチェックしたあと、ヒカルは、ふいに寝室のドアに目を向けた。

「……一応、ベッドカバーも直しとこっかな。やっぱ、初めての夜だしさ」

 にわかに乙女モードにシフトしたヒカルは、少し頬を染めて、ぱたぱたと寝室に走っていった。

 夜だというのにベランダに出て、ベッドカバーをはたいていると、玄関からガチャリという金属音が聞こえた。

(うわっ! こんなとこ見られたら、オレが期待してるって思われちゃう!)

 大急ぎでシーツをかけ直しながら、平然とした声色を作って、「いらっしゃーい」と、声をかける。

 なんとか体裁を整えて寝室を出るが、リビングには誰もいない。

(あれ? まだ部屋に入ってないのかな? 塔矢のヤツ、ガラにもなく遠慮してるのか?)

「なにしてんだよ。散らかってるけど、適当に……って、塔矢?」

 ヒカルが、玄関まで迎えにいくと、そこには、靴も脱がずに大の字になって寝転がるアキラの姿があった。

 まるで、泥酔した中年オヤジのようだ。

「お、おい! 塔矢!」

 あわてて身体を揺するが、聞こえてくるのは「しんどおおぉぉぉ……」という寝言と、「ぐがががごごごぉぉぉ……」といういびきだけだ。

「……寝ちまってる」

 まあ、二日間徹夜したとなれば無理もない。

 だが、少なからずドキドキしながら部屋を片づけたヒカルとしては、呆れていいのやら、ほっとしていいのやら。

 とりあえず、アキラの両脚をつかんで、ずるずるとリビングへ引きずっていった。

 寝室から予備の毛布を取り出し、身体にかけて、ため息をつく。

「根性だけは認めてやるけどさ。バカ塔矢」

 朝まで目を覚ましそうにないアキラを尻目に、ヒカルは、ひとり、ベッドに入ったのだった。


                                           おしまい





 いやあ、恥ずかしいっすねえ。

 恋する乙女なヒカルちゃんですよ(照)。

 一人暮らしのマンションに訪ねてきたアキラさんを迎えるとなっては、さすがのヒカルさんも、嬉し恥ずかしなんじゃないかな、と。

 拙宅にしては珍しく、ラブコメ風な展開になったかも。←あくまでも当社比

 近日中に、蛇足編を書きます。

 この後編までで、とりあえずオチてるとは思いますが、こんな結末じゃあ、なんとなく拙宅風ではないかな、ということで。





お戻りの際には窓を閉じてください