はなげのれんきんじゅちゅし

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 アキラくんのお父さんが囲碁を教えているお弟子さんのなかに、弘幸くんという男の子がいます。

 黒いランドセルを背負って小学校に通う弘幸くんを、ヒカルちゃんは、かっこいいお兄ちゃんだと思っています。

 でも、アキラくんは、弘幸くんのことを「お友達だよ」と、公言して憚りません。






 さて、ある日のこと。

 ヒカルちゃんとアキラくんは、弘幸くんのおうちに遊びに行きました。

 何をして遊ぶのでしょうか?

 それは、言うまでもないでしょう。

 弘幸くんのお部屋には、もちろん碁盤がありますからね。



 アキラくんと弘幸くんは、さっそく碁盤の前に座りました。

 ヒカルちゃんはというと……。

「わあっ! ランドセルだっ! ねえねえ、ひろゆきくん。ヒカ、ランドセルしゃわってもいい?」

 目を輝かせて、学習机の前に置いてあったランドセルに駆け寄りました。

 今、幼稚園で流行っているお遊びは、「学校ごっこ」です。

 本物のランドセルや教科書を、間近に見られるチャンスを、ヒカルちゃんが見過ごすわけがありません。

「別にいいけど……、ヒカルちゃんは打たないの?」

 弘幸くんは、3人がどういう順番で打つか、じゃんけんで決めようと思っていたのですが。

「ヒカ、あとでいいよ。だって、ヒカ、親指がふかづめで痛いんだもん。ランドセル見てるからいい」

 ヒカルちゃんは、右手の親指を突き出して答えました。

 その先には、絆創膏が貼ってあります。

 アキラくんが聞いた話によると、ヒカルちゃんは、お母さんに爪を切ってもらうのですが、爪切りが怖くて、いつもじたばたしてしまうんだそうです。

 爪を切るときに動いたりしたら、かえって危ないというのに。

 そして、今回は、とうとう、お母さんもヒカルちゃんの身動きを察知しきれずに、深爪をしてしまったというわけです。

 ヒカルちゃんは、まだ、人差し指と中指で碁石をはさむことができません。

 親指と人差し指で、つまんで持つのです。

 右手の親指が深爪になってしまっていては、ちょっと痛いかもしれません。



 ヒカルちゃんが辞退したので、アキラくんと弘幸くんが対局することになりました。

 アキラくんのほうが年下ではありますが、実力は伯仲。

 もしかしたら、アキラくんのほうが上手かもしれません。

 互先で対局しましたが、30分もしないうちに、弘幸くんの投了で、対局は終わりました。

「「おりがとうございました」」

 終局後のあいさつを済ませたところで、ふたりは、ヒカルちゃんを振り返りました。

 ずいぶん長いこと放っておいてしまいましたが、まだ飽きずにランドセルを見ているのでしょうか?

 ヒカルちゃんは、ふたりに背中を向けて、おとなしく何かを読んでいるようです。

「あれ? ヒカルちゃん、それ……」

 弘幸くんは、ヒカルちゃんが持っている物がなんなのか、すぐにわかりました。

 だって、それは、弘幸くんのランドセルのなかに入っていたのですから。

「ん? ヒカね、ご本読んでるの」

 ランドセルに入っていたということは、教科書でしょうか。

 小学校の教科書にしては、ずいぶん小さくて、厚みがあります。

 そして、絵ばかりが並んでいます。

「ヒカルちゃん、何を読んでるの?」

 アキラくんは、うしろから覗き込みながら問いかけました。

 すると。

「はなげのれんきんじゅちゅし」

 ヒカルちゃんは、本の表紙を見せて答えました。

「はなげ……?」

 アキラくんは、驚いて表紙の字を見てみましたが、難しい漢字ばかりで、さすがのアキラくんにも読めません。

「あはははは。それを言うなら、鋼の錬金術師だよ」

 いつもならアキラくんが突っ込むところですが、今日は、弘幸くんに、お株を取られてしまったようです。

 しかも、弘幸くんは、自分で突っ込んでおきながら、大ウケしています。

 身体をふたつに折って、おなかを抱えて大笑い。

 お笑い芸人には向いていないようです。

 アキラくんは、本の表紙の上のほうに、とっても小さなひらがなで、「はがねのれんきんじゅつし」と書いてあるのを見つけて、少し納得しましたが、意味は全然わかりません。

「それ、どういうお話なの?」

 アキラくんは、ヒカルちゃんがおとなしく読んでいたくらいだから、そうとう面白い話なのだろうと思って、訊いてみました。

「うーんとね」

 ヒカルちゃんは、かいつまんで要領よく説明しようと試みました。

 曰く。

 髪の毛の長い男の子が、手をあわせてお願いしながら電車に乗る話。

 とげとげのついた大きなぬいぐるみが、ふんどしをしている話。

 スカートを穿いてる男の人が、指ぱっちんする話。

 アキラくんには、何がなんだか、さっぱりわからないままです。

「しょれでね。指ぱっちんすると、ぼーって火が出るの。危ないよね。火事になっちゃう」

 ますますわかりません。

 でも、弘幸くんには通じたようです。

 うんうんと頷く弘幸くんを見て、アキラくんは心配になりました。

 だって、自分だけが仲間はずれで、ヒカルちゃんと弘幸くんの心が、通じあっているように見えたのですもの。

 弘幸くんが、「ヒカルちゃんって、かわいいなあ」と、つぶやいたのを聞くに至っては、アキラくんは、お友達であるはずの弘幸くんを、キッと睨みつけざるをえませんでした。

 そして。

「ボクも、はなげのれんきんじゅつし、読んでみようかなあ」と、ぽつりとつぶやいたのでした。

 微妙にタイトルを間違えておぼえているところが、涙を誘います。






 帰り道でのこと。

 ヒカルちゃんは、思い出したように言いました。

「ヒカね、じゅっと前に、指ぱっちん練習したことあるんだ。でもね、お母しゃんがダメって言ったの。しょんなことできなくてもいいのよって」

 火事になったら困るからだったんだね、ヒカ、今日やっとわかったよ、と、続けるヒカルちゃんに、アキラくんは、どうお返事したらいいものか、困ってしまいました。

 ヒカルちゃんは、なおも続けます。

「ヒカみたいにふかづめになったら、痛くて指ぱっちんできないね。でも、火事にならないから、しょのほうがいいのかな。あの男の人のお母しゃん、わざとふかづめにしゅればいいのに」

 そして、「とじまり ようじん ひのようじん♪」と、歌い始めました。

 アキラくんは、一生わからないままでいたほうがいいような気がしてきて、とりあえず、はなげのれんきんじゅつしのことは、考えないことにしたのでした。



                                  強制終了


 



 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいーーーーーっ!

 はがれんファンの方、もし見てたら、ほんとにごめんなさい(陳謝)。

 でも、がびも好きなんですよ、はがれん。

 がびが知ってる、数少ない漫画のひとつなんです。

「はなげの…」と言い間違えたのは夫。

 深爪したのは、がびの右足。

 ええ、足ですとも、足。

 こどもの頃、ちょっとワルっぽいお兄さんたちが指ぱっちんしているのを見て、「カッコいいなあ」と、練習したことがありました。

 でも、母親に、「家が火事になるからやめなさい」と、叱られました。

 この言い回しは、こどもに言うことをきかせるための都市伝説だと思いますが。

 ほら、夜は笛を吹いちゃいけないとか、足をのばしたまま物を拾っちゃいけないとか。

 おかげで、がびは今でも、指ぱっちんできません。

 そんなことをまぜこぜにして書いてみました。

 ほんと、降ってわいたような突発ネタでスミマセン(平伏)。



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