キリ番リクエスト・リレー小説

「がびきゃっと、愛の物語 IN 北斗杯」

「承」の章・瑛さまより


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 ホテルに着いたら、大勢の女の子たちが、黄色い悲鳴をあげて僕たちを出迎えてくれた。

 ……僕たち、じゃない。

 彼女たちのお目当ては永夏だ。

 ここ数年、日本は韓流ブームだとかで、韓国の俳優や歌手が大人気だそうだけど。

 そんなブームとは無関係に、永夏はかっこいいんだ。



 カメラつき携帯電話やデジカメを構えて、永夏を写真におさめようとがんばっている女の子たちに向かって、永夏は、いつものポーズをとった。

 そう。

 僕の肩を抱いて、女の子たちに向かって流し目をくれてやったのだ。

 もちろん、僕と永夏はそういう関係じゃない。

 ブロマイド級のベストショットを期待する女の子たちに、ちょっと意地悪をしているだけだ。

「どうせならファンサービスに、キスくらいして見せようか」

 永夏が、僕の耳元で囁く。

「ば、ばかっ! なに言ってんだよ///」

 冗談だってわかってるはずなのに、僕は永夏の腕の中からもがき出ようと、じたばたしてしまう。

 それを許さず、永夏が僕をギュッと抱きしめたところで、女の子たちの悲鳴が一際大きくなった。

 ……っていうより、歓声があがったような気がしたんだけど。

 フラッシュの数が倍増したのは、絶対に気のせいじゃないし。



 チェックアウトを済ませて、部屋に向かうエレベーターのなか。

「日本って国は、本当におもしろいな。秀英、今年は邪魔するなよ。俺は本気で楽しむつもりだ」

 永夏は、それはもう綺麗な微笑みで、僕に宣言した。

 何をするつもりなのかは、だいたい予想がつくけど。

 なんだか心配だな。



               *          *          *



 ……高永夏…。

 ボクの進藤に、ずいぶんと馴れ馴れしいじゃないか。

 去年のレセプションとは、態度がまるで違う。

 いったいどういう了見だ?

 秀策がらみの暴言についての誤解は、去年の北斗杯直後に、洪秀英の親戚が日本で経営しているという碁会所で、すでに解かれていると聞いている。

 進藤本人が、「永夏って、おもしれーヤツでさあ…」と、楽しそうに話してくれたので、それは間違いない。

 だからって、ボクがお偉いさんにつかまっている間に……ああ、そんなにくっついて!

 洪くん!

 君もそこにいるのなら、高永夏から進藤をガードしろ!

 なぜ、中途半端にふたりの間に入っているんだ!

 ほら、また、高永夏が進藤に近づいた…。

 しかも、進藤のグラスに正体のわからない液体を注いでいるじゃないか!

 心なしか、進藤の顔が赤くなっているような気がする。

 ……あ、こら、どこへ行くんだ!

 進藤…なんだか足元がふらついてないか?

 あ、あ、あ、あ、こ、こここ高永夏!

 進藤の肩を抱いていいのは、世界広しといえども、このボクだけだ!

 そんなに密着して、進藤をどこへ連れていく気だ!?

 洪秀英!

 そんなふうに、あとからちょろちょろついていかずに、ふたりをとめるんだ!

 進藤も!

 キミは、そんなにホイホイと、誰にでもついていくような人間ではないはずだ。

 キミはボクを追い、ボクだってキミだけを追ってきた。

 そうじゃなかったのか?



 ……ああ、もう!

 主催者だか来賓だか知らないが、この非常事態に、つきあっていられるか。

「すみません、失礼します」

 確かに失礼な態度かもしれないが、構っている場合ではない。

 ボクは、ことの詳細を聞き出すため、もうひとりのチームメイトを探した。



               *          *          *



「社!」

 めったに拝まれへんローストビーフなんちゅうもんを、ありがたーく頂いとったところに、おかっぱがエライ勢いで近づいてきよった。

 こいつが呼び捨てにしよるのは進藤だけ。

 俺のことは、いつも「社くん」や。

 その塔矢が、こないに興奮して、俺を呼び捨てにするっちゅうことは。

 進藤と高永夏のことやろな。

 さっき、妙にふらふらした進藤と、なんやようわからんけど楽しそうにニヤケとる永夏が、会場から出ていきよったし。

 ははーん。

 嫉妬やな。

「進藤を見なかったか?」

 ほーら、やっぱり。

 進藤がらみや。

「高永夏と一緒に飲み食いしとったで」

「そんなことは先刻承知だ。今、どこにいるかと訊いているんだ!」

 ……それがひとにモノを尋ねる態度かちゅうねん、まったく。

「知らんわ。ふたりして仲よう連れシ○ンにでも行ったんちゃうか?」

   ぴきーん☆

 しもたっ!

 おかっぱに逆毛が立っとる。

 俺の「仲よう」がマズかったんやろか。

「何をのんきに構えている! 進藤が高永夏に一服盛られて、手篭めにされたらどうするんだ!」

 一服盛られて手篭めって。

 なんやずいぶんと時代がかった表現やんか。

 ……って、つっこむとこがちゃうて。

 もし、進藤が高永夏に、あーゆーコトやこーゆーコトをされてもーたら…。

 あかん!

 日本棋院と韓国棋院の全面戦争になるっ!

「社! 行くぞっ!」

 行くぞって、いきなり何すんねや。

 勝手に人の腕つかんでからに。

 どこに連れてく気や。

 まさか、今から宣戦布告とか言いなや。

「ちょい待てや、こら。おい、塔矢」

 ……あかんわ。

 まったく聞いとらん。



「ボクはこっちを探す。君は向こうを頼む」

 ほんまに「頼む」っちゅう言葉の意味、わかっとんのか、おい。

 しっかし、まあ、ほっとしたわ。

 塔矢が俺を会場から引っ張り出したのは、宣戦布告のためやのうて、それを未然に防ぐために、進藤を探し出すのが目的やった。

 そんでも、まあ、あれやな。

 いつもは身奇麗にしとる塔矢が、髪振り乱して血眼になって、必死で進藤を探し回っとるっちゅうのんは、見てて、なんやかわいそうになってくるわ。

「しゃーないなー。日韓の碁界の平和維持と、にわかチームメイトのために、一肌脱いだるか」

 塔矢はトイレと階段のほうを見にいきよったさけ、俺は向こうの誰もつこうてへん宴会場のほうを見てくることにしよか。



 ……

 ………

 …………

 ……………あかん。

 ほんまにあかん。

 どないしょ。

 進藤と高永夏を見つけたのはええねんけど、これはほんまにあかんて。

 誰もおらん宴会場の畳の上で、半分寝こけとる進藤に、高永夏が覆いかぶさっとる。

 こんなん、塔矢に見られたら、日韓碁界の全面戦争勃発や。

 ほんまに、どないしょ…。



               *          *          *



「とにかく、塔矢アキラを呼んでくるから、誰にも見つからないように静かにしててよね」

 まったく。

 邪魔するなと言っておいたのに、秀英のヤツ。

 せっかく塔矢アキラをからかうチャンスだったのに。

 俺が進藤に接触しようとすると、すぐにあいだに入り込んで…。

 おまえは、進藤と俺のどちらに妬いているんだ?



 1年前は、まだ塔矢の片思いだったようだが、今日の様子から察するに、間違いなくこいつらはデキてる。

 だが、俺のにらんだところ、身体の関係は、まだなさそうだ。

 この進藤が相手じゃ仕方ないだろう。

 無防備に寝転がり、なかばひらいたままの口で、少し苦しそうに眉根を寄せて呼吸している進藤は、確かに幼いなりに色気はあるが、あまりにも無邪気すぎて、塔矢も手が出せないといったところか。

 ……苦しそうだといえば。

 俺は、進藤のネクタイを緩め、ワイシャツの一番上のボタンをはずしてやった。

「……そんなに食べられないよ…。……オレ、もう腹いっぱい…」

 ???

 進藤が小声で何か言っている。

「なんだ? どうした、進藤」

 進藤の顔に耳を近づけてみたが、どうやらそのまま寝入ってしまったようで、スースーという寝息が聞こえるばかりだ。

 まあ、いい。

 聞こえたところで、日本語では理解不能だ。

 それより気になるのは、あの柱の陰からこっちを見ている若白髪。

 確か、社とか言ったな。

 塔矢に見せつけられなかったのは残念だが、あいつにこの状況を見せられただけでも、よしとしよう。

 別にたいしたことをしたわけじゃないが。

 あの角度から一部始終を見ていたのなら、簡単に誤解してくれたことだろう。



               *          *          *


 大変だ、大変だ、大変だ!

 永夏のことだから、たぶん冗談だろうとは思うけど。

 だからってやりすぎだよっ!

 進藤と塔矢がつきあってるからって、どうしてからかう必要があるんだよ。

 なんにも知らない進藤に、こっそりお酒なんか飲ませてさ。

 大会関係者にバレたら、どうするんだよ!

 ……それは置いといて。

 いや、置いといちゃいけないのはわかってるけど。

 あんなふうに進藤にかまうなんてさ。

 ただ塔矢に見せつけるためだけなのかな。

 それとも、まさか。

 本当に進藤のことが好き……?

「ああああっ! 何を考えてるんだ、僕は! 今はとにかく、塔矢を見つけなくっちゃ」

 そう言いながらも、頭に浮かんでくるのは、進藤の肩を抱いて親しげに話しかける、永夏の整った綺麗な顔。

 この落ち着かない不安な気持ちは、いったいなんなんだろう。




「承」の章・瑛さまからのご提案

*ヨンハとスヨンが北斗杯の韓国代表で来日する。

*ヨンハはアキラとヒカルの関係に気づき、からかう為にヒカルを必要以上にかまう。

*誤解したスヨンが焼もちをやく(スヨンはヨンハが好きだが、自分の気持ちに気づいていない)。

*社は、ヨンハがヒカルに本気だと勘違いして、一人あたふたした挙句、アキラに八つ当たりされる(あわれ)。

*ヒカルは自分を取り巻く不穏な空気に気づかない(天然)。



 アキラと永夏の毒吐き合戦→アキラ敗北→社に八つ当たり…という流れのほうが、おもしろそうだったかも。

 ヒカちゃんの独白は、アレだけです。ごめんなさい(汗)。

 キヨさんが八つ当たりされるタイミングが、リクとズレてますね(冷汗)。

 社の言葉遣いについて。70歳代・兵庫県出身のじーさんの口調をまねていますので、間違いだらけだと思います。前回の掲載分、つっこみがなかったので放置してありますが、今回の分ともどもご教示くださいませ。

 そうそう。「起」の章ご担当のココさまからの鋭いつっこみに感銘を受け、4回連載のなかに、ちょっとした仕掛けが隠されています。詳細は、完結後のおまけページで♪←完結できるよね? だいぢょーぶだよね?


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