三等兵・改、初めての一人旅?



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 わたしの名前は、「三等兵・改」。
 似たような名前の「三等兵」とは、盃を交わしあった仲だ。
 「三等兵」は、階段重視のコンパクトサイズ、わたしは、長距離移動用の安心サイズ。
 お互いに役割分担して、ご主人さま(がび)を助けている。

 テニスばかりしている中年男や、規格外に太った頭の悪い猫よりも、わたしたちのほうが、ずっとご主人さま(がび)のパートナーとしてふさわしいはずだ。



 ご主人さまは、最近、あまり三号機を使わない。
 わたしを供に選んで、どこへでも歩いてでかける。
 それどころか、コンビニくらいだったら、わたしをクルマで留守番させておいて、手ぶらで買い物に行ってしまうくらい元気いっぱいだ。

 ……それは、いいのだが。

 
だからといって、新幹線のなかにわたしを置き去りにして、自分だけ降りてしまうのは、いかがなものか。

 そう。
 あれは、京都駅でのこと。
 ご主人さまは、リュックと菓子折りを持って、さっさと列車を降りてしまったのだ。
 しかも、わたしが側にいないことに、まったく気づいていない様子だ。

 今日の目的地は、鳥取だ。
 わたしの助けなしで、ご主人さまひとりで、そんな遠くまでたどり着けるとは、到底思えない。

 ああ、車掌よ。
 乗客の誰かでもいい。
 早く、わたしの存在に気づいておくれ。

 わたしの祈りが天に通じたのだろうか。
 京都駅を出発してすぐに、車掌がわたしのところへやって来た。

 よし。
 あとは、ご主人さまのもとへ戻るだけだ。
 次の新大阪に着いたら、のぼりの新幹線に乗ればいい。

 新大阪に着くと、車掌は、わたしをホームの係員に手渡した。
 ふむふむ。
 ここまでは、いたって順調。
 あとは、のぼりの新幹線に……って、ちょっと待て、おい。

 
ホームの小屋に放置するなーーーーっ!

 早く戻らないと、ご主人さまが乗り換える予定の在来線の特急が、京都駅を出発してしまう。
 その電車に乗らないと、今日の仕事に間に合わないんだ。
 ああ、ご主人さま。
 きっと心細い思いで、わたしを待っているに違いない。
 
 ……ん?
 ちょっと待てよ。
 ご主人さまの性格からすると、
そこいらへんの店で、代替品を購入して、さっさと鳥取へ向かってしまうのではないか?

 そうしたら、わたしは……お払い箱?

 なんてことだ。
 おい、誰か!
 わたしを早くここから出してくれ!





 それから、どのくらい経っただろうか。
「あー、それです、それです。どうもスミマセン。助かりました」
 聞きなれた声がする。

 ご主人さまだ!
 新大阪まで、わたしを迎えにきてくれたのか!
 一瞬でも疑った自分が恥ずかしい。

 ご主人さまは、自分の右腕にわたしをはめた。
 ああ、実にぴったりくるこの感触。
 わたしとご主人さまが一心同体だと、実感できる瞬間だ。
 このぴったり感は、
冬の着ぶくれのせいだけではないはずだが、ここでは触れまい。

 だが、ご主人さまは言った。
「もう。なに降りっぱぐれてんのよ。がびが降りるときに、一緒に降りなきゃダメじゃんか。グズ!」
 ……そりゃないっスよ。



 その後、新大阪から特急に乗った。
 もともと乗るはずだった、京都始発の列車に、途中から乗ったというわけだ。

 いつもは、わたしを窓側にほったらかしにして、ぐーすか寝ているご主人さまだが、さすがに今日は、わたしをぎゅっと握りしめている。

 わたしがそばにいなくて寂しかったのだろう。
 かわいいご主人さまだ。
 わたしに向かって、まるで睦言のように話しかけてくる。

「……京都の駅ビルで、
新しいのを買おうと思ったんだけど、電話で問い合わせてみたら、銀色しかないっていうんだもん。アルミまるだしは、いただけないもんなあ」
 そして、「一駅分の新幹線代はもったいなかったけど、
新品を買うより安いもんね」と、つけ加えた。

 やっぱり。
 こういうヤツだよ。





 かくして、わたしの初めての一人旅は、45分ほどで終了した。
 ……ん?
 初めての?
 こんなこと、二度とごめんだからな!
 頼むぞ、ご主人さま!






 がび(人間)が、新幹線に忘れ物をしてしまった実話に基づいて、笑い話風に仕立ててみました。

 京都の伊○丹で、ゆっくりランチでもしようと、乗り継ぐ特急の出発時刻よりも、かなり早く京都に着いていたために、次のひかりで新大阪へ向かい、無事に受け取ることができました。

 その特急に、新大阪から乗れるという旅程もラッキーでした。

 人間、やっぱり余裕をもって行動することが大事よね。
 ……京都で、寝過ごしそうになって、あわてて降りたから忘れちゃったんだけど(苦笑)。



 ホームの係員さんに相談したところ、上りの新幹線で京都に届けてくれるとか、新大阪で預かっておいて、在来線特急が着くのにあわせてホームで渡してくれるとか、いろいろ提案してくれました。

 ブツがブツだけに、ものすごい早さで連絡してくれました。
 ありがとうございました(平伏)。

 決して、駅員さんを信じてなかったわけじゃないんですが、瞬時にそんな受け渡しができるのか心配だったので、自分で迎えにいったわけです。

 三等兵・改を忘れて、さっさか降りてしまうくらい、がび(人間)は現在、元気いっぱいです♪





                                       2006年1月18日  がびきゃ拝


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