同人女と新人編集者
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あたしは△子。
地味な一般職から、憧れのマスコミ系に、華麗なる転職を果たしたばっかりの27歳のOL。
ちょっと硬派な専門書を扱う小さな出版社に、今年の4月から勤めてるの。
新人研修が終わって、今じゃ、先輩と一緒に営業に飛び回る忙しい毎日。
そうそう、知ってた?
出版社の営業って、本を売り込むのと、専門バカに何か書いてって頼むのと、2種類あるのよ。
まあ、売り込みのほうはダイレクトメールが主流だから、どちらかと言えば著者探しに重点を置いてるみたいね。
自分の専門分野の本を書きたがってる人は多いけど、その企画を自分から出版社に持ち込んでくる人って、全然いないのよ。
たまたまタイミングよく声をかけた出版社から本を出すことになる…っていうケースが多いらしいから、こまめに営業をかける必要があるわけ。
それでね。
めでたく著者と契約できたら、その営業をかけた人間が企画の進行に携わるの。
それどころか、編集作業の中心的位置に立つこともあるんだから。
……うちみたいな弱小出版社だけかもしれないけど。
バリバリの女性編集者……なんて素敵な響きvv
そりゃあ、まだまだ新入社員である今のところは、新刊のサンプル本を配布してまわるのが主な業務なんだけどね。
今日の営業先は……まあ、こういう場だから詳しくは語らないけど。
とにかくヘンなとこだったの。
もう入り口からして変わってたわ。
ドアの横のネームプレートには「がびきゃ」。←管理人注:嘘です(笑)。ちゃんと本名が書いてあります。
これって、「がび・きゃ」?
それとも、「が・びきゃ」?
もしかして、「がびきゃ」で名字なのかしら。
それに、他の部屋は「在室・不在」の表示なのに、ここだけは「います・いません」なの。
なによ、それ。
先輩が言うには、外国の人らしいけど。
うちではけっこう再版を重ねてる部類に入る本の、共同執筆者のひとりだっていうから、日本語は通じるはずよね。
コンコン☆
「どーぞー」
なめくさった声がした。
「失礼しまーす」
ドアをあけると、そこには何かの漫画のカレンダー。
和風の柄のシャツを着た男の子ふたりが、背中あわせにならんでる。
だけど、7月・8月って、どういうこと?
今は6月よ。
あら?
そのあとにあるはずの、9月・10月と、11月・12月がないじゃない。
っていうより、これ、去年のカレンダーだわ。
……つまり、この男の子ふたりの絵が重要ってこと?
なんなのよ。
もしかして、アニメオタクかなんか?
泥棒でももう少し丁寧に荒らしていくでしょうに…っていうくらい散らかった部屋の奥に、おかっぱ頭の小太りな中年女が座っていた。
先輩からこの人の年齢は聞いてたけど、意外に若く見えるわね。
あるいは、太ってシワがのびただけだったりして。
あら?
ちょっと、ちょっと、ちょっと!
あんた、今、何を隠したの?
今にも崩れそうなファイルとプリントの山から、ちょっとはみだして見えてるわよ。
厚さ1cm弱。
サイズはA5。
ISBNもバーコードもない裏表紙。
あれは、まさしく同人誌!
やっだー。
ほんとにどこにでもいるのね、同人女って。
新刊のサンプル本と、あたしのピカピカの名刺を渡して、さっさと帰ろうとしたら、先輩がだらだらと話を始めてしまった。
「来年の春あたりに向けて、何か書きませんか?」
「えー。やだ」
なんなの、その覇気のなさは。
「そんなこと言って…。○○社さんから出すんじゃないでしょうね」
「あそこはうるさいから絶対イヤだよ。手書きはダメだとか、図表の位置を指定しろとか、著者校正3回やれとか。ありえないっしょー」
そんなの、あたりまえじゃない。
こっちは新人研修で、出版の流れを勉強してきたばっかりなのよ。
それを、いきなり否定するんじゃないわよ。
「あはは、それはがびさんには厳しいなあ。うちは従来通り、手書き・棒線訂正・マス線無視・殴り書き…全部オッケーですよ」
うっそー!?
そんなに甘いことでいいわけ!?
「何かテーマはないんですか?」
「うーん。ないこともないんだけど…」
ちょっと、あんた!
今、その同人誌のほうを見たわね!
うちは同人誌なんか、やってないわよ!
印刷業じゃなくて、あくまでも出版業なのよ。わかってる!?
弱小とはいえ、おカタい学術書が専門なんだからね!
「A5版くらいの大きさで、うすっぺらくって…」
「ああ、同人誌のイメージですか。いいですねー。ゼミに入る前の人たちを対象にした、軽い入門書みたいな感じで…。コラムかなんかも散らしたら…」
ちょっと待ちなさいよ、先輩。
こいつが書きたがってるのは、ボーイズラブとか二次創作とかいうヤツなのよ。
わかってるの!?
「塩基配列をいじくった結果を仮想モデルで示したり、一般的な事象をベクトル変換させて合成図を作ったり…。これは新しいですよ。いけますよ!」
「うーんと…。そういうのじゃなくって…」
ほら、また同人誌のほうを見た!
もう! 早く帰ろうよ、先輩。
「ねえねえ。データ入稿って何? 殴り書きの手書き原稿を取りに来てもらうのと、経費って全然違うの? 改行とか段落とかのレイアウトも、自分でやると安くなったりする? それから、表紙のデザインとかって、デザイナーさんじゃなくて…」
ほらほら。
リサーチが入ったわよ。
間違いなく、この同人女、自費出版をたくらんでるわ。
「そんな心配はいりませんよー。ちゃんと売価設定しますから。いつも通りで大丈夫ですよ」
「んー。でも、知りたいんだもん。自費でやるとすると、頼む先は印刷屋さんなのかなー」
ほーら、きた。
「うちで書いたらいいじゃないですか。1000部から刷りますよ」
「ううん。100部でも多いと思うんだ」
「100だと採算があわないなあ。いったい、何を書くんですか?」
「……内緒」
結局、うちの利益のつながるような生産性の高い会話はないまま、あたしたちはオフィスに戻ったの。
もう、あそこには絶対に行かないんだから。
予言してもいい。
あの女が次に書くのは、論文でも要綱でもないわ。
オタク同人系の素人くさい二次小説よ!
あんなヤツに営業かけるなんて、まったくもって時間の無駄ね!
今日、サンプル本を持って、出版社の人が職場にやってきた。
来たのは、いつものおじさんひとりだったけど。
ちょっと趣向を凝らして、架空の人物・△子さんを登場させて、語ってもらってみたのだが……なんか失敗っぽいぞ。
でも、せっかくなので(?)、このままUP。
過日、夫に自費出版のことをたずねてみた(あくまでも本業がらみを装って)ところ、「おまえには、ぜーーーーーったいムリ!」と、断言された。
今日の午後、つきあいのある出版社の人が来たので、きいてみたわけだが、さすがにこちらの事情を話すわけにはいかない(笑)。
そりゃあね。
指定の原稿用紙のマス目は無視するし、紙の最後のとこは余白まで使って書いちゃうし、鉛筆書きなのに消しゴム使わないで線だけ引っぱってとなりに書き込むし。
辞書を引かずに、ひらがなで書いた字に印をつけて、赤で「漢字で」って書くし。←初稿だけは朱筆入れまくり。二稿以降は放置。
何より、人類のボーダーぎりぎりの、すっごい字だし。
きたない原稿だなあとは思うけど、それをなんとかしてこそ、真の編集人じゃないか。←アナクロ思考
確かに、小説(っぽいモノ)を書いてるなんて誰にも言ってないし、サイトの運営をやってるのも配偶者以外には内緒(ってゆーか、内容は夫にも内緒だけど)だから、いつもの管理人の実態だけ見たら、まずムリだって思うよなあ…。
でもさ。
こないだのオンリーイベントで、作家さんたちが自作本を誇らしげに陳列してるのを見てたら、とっても羨ましくなっちゃって、なんだかやってみたくなっちゃったんだなあ、これが。
いいなー、いいなー。
わたしも本が作りたいなー。
脱分極とか活動電位とか脊髄前角細胞とかが出てこない本。
遺伝子とか酵素とかも出てこない本。
電子顕微鏡写真とかも載ってない本。
憧れのA5サイズの1色刷りのうすい本v
いいなーvvv
でも、まずは、目先の学会用の抄録書きから始めなければ。
△子! おまえの予言はハズレだっ!
ワタシは、ちゃんとシゴトをしているぞ!
……架空の人物に向かって、何を言ってるんだか。
ちなみに、管理人の本業は、執筆業ではありません。
あれ? もしかしたら本業の一環なのかな?
うちの駄文たちをご覧になれば、おのずとおわかりですよね。とほほ(苦笑)。
あ、そうそう。
職場で同人誌読んだりなんて、してませんからねっ!
2005年6月15日 がびきゃ拝
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