セーラー服よ、永遠に?(中)

 この作品は、沙里さまからのステキなリクエストをもとに書かせていただきました『「ただいま」を永遠に』の番外編…つまり蛇足です。

 当然ですが、本編を先にお読みいただかないと、いつも以上に意味不明かと思われます。


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 さて。

 棋院会館の前で、行洋とのツーショット写真の撮影を終えたヒカルは、アキラにエスコートされるようにして、幽玄の間に足を踏み入れた。

 雑誌のカメラマンや、モニター観戦用のビデオカメラを意識して、アキラは必要以上にヒカルにくっつき、防虫対策のために自分の存在をアピールしていたが、撮るほうもそこはプロ、しっかりとアキラをファインダーからはずして撮影している。

 目も眩むようなフラッシュの嵐のなか、とりあえず、ヒカルは愛想よく笑ってみせた。

 その時、にわかに建物全体が揺れ、地響きが起こった。

 3階の大ホールで、「ヒカルコール」が湧き起こったためだ。

 何事かと、ヒカルは驚いてアキラにしがみつく。

 アキラも、ここぞとばかりにヒカルを抱きしめる。

 あれほど眩しかったフラッシュの嵐が、ぴたっとやんだ。

 たいへんわかりやすい。

 そして、「じゃあ、またあとでv」と、アキラが名残惜しそうに部屋を出ていくと、再びフラッシュがたかれ始めるのだった。



 ヒカルのピン撮影が済むと、今度はヒカルのプロ入り第一手目という「記念すべき瞬間」の撮影に移る。

 取材のための撮影が許されるのは、黒番の第一手が打たれるまで。

 チャンスは、わずか数十秒。

 ベストポジションで撮影しようと、カメラマンたちのあいだで、場所取り合戦が勃発する。

 和服姿の行洋と、セーラー服姿のヒカルが、碁盤をはさんで対峙するなか、立会人である一柳棋聖が、扇子で自分の禿頭を叩きながら提案する。

「なあ、新初段。せっかくだから、第一手を打ったら、そのまま手を離さないで、しばらくポーズをとっといておくれよ。君だって、へんな写真が雑誌に載ったらイヤでしょ? サービスだと思ってさ。ひとつ頼むよ」

 対局前の挨拶をかわしたあと、一柳の提案に従って、ヒカルは小目に打った黒石から手を離さずに、そのままの姿勢で撮影が終わるのを待った。

 次から次へと入れ替わり立ち代わり、カメラマンたちがシャッターを切っていく。

 しだいに腕が疲れてきたヒカルは、「まだぁ?」と上目遣いにひとりのカメラマンを睨みつけた。

 犯罪レベルに魅力的なその表情を、運良くフィルムにおさめることができたカメラマンは、のちに、その功績を称えられて、一気に出世したと聞くが、これは余談である。






 撮影が終わり、カメラマンたちが部屋を出ていくと、ヒカルはほっと息をついて、左手で右腕を揉みほぐした。

 行洋は、すぐには二手目を打たず、ヒカルに話しかけた。

「筋肉痛を起こしてはいけない。あとでアキラにマッサージしてもらいなさい」

「お風呂に入ってあったまればへーきだよ」

「うむ。風呂あがりのほうが効果的だな。アキラに言っておこう」

「あ、そーだ。今日はあわあわの入浴剤にしよう。オレ、あれ好き…v」

「あれは、出るときにかけ湯をせねばならんのが難点だが、西洋の風情があって、なかなかよいものだな」

「でしょ、でしょ? 先生は、ロマンチックローズとフレッシュシトラスどっちが好き?」

「うーむ。……薔薇も柑橘系も、いずれ劣らぬ趣がある」

「じゃあ、今日はシトラスでいい?」

「ああ、かまわんよ」

「やったぁv ……あ。そーいえば、お風呂あがりのアイス、切らしてたんだ」

「それなら、帰りに駅前の…なんと言ったかな、数字のついた名前の…。あそこで買って帰ればいい。今日はアキラもいることだし。全種類を買っても、荷物持ちには困らないだろう」

「わあ〜い。楽しみ〜vvv」



 あまりにもアットホームな雰囲気に、記録係や時計係の低段棋士は、呆気にとられてしまった。

(塔矢家に下宿しているとは聞いていたけど、天下の塔矢行洋を相手に、入浴剤やらアイスクリームやらの話題で盛り上がるとは…。なんという大物新人だ)

(もう時計を押してもいいのかしら…。この黒番の子は石から手を離したから、今は塔矢先生の持ち時間よね? それにしても、塔矢先生が対局中に世間話をするなんて…。碁界一お堅いイメージの方なのに。しかも、先生のほうから話しかけていらしたし。もうビックリよ)

「おいおい。そんな話は家でやっとくれよ。さあ、さっさと打った打った」

 一柳に促されて、ようやく対局が再開されたのだった。






 その頃。

 記者室のモニターで、対局のようすを見ようと廊下を歩いていたアキラは、棋士会長をはじめ、上層部のお歴々につかまり、空き部屋に連れ込まれていた。

「なんですって!? もう一度おっしゃってください!」

 激昂したアキラをなだめるように、お歴々は口をひらいた。

「まあまあ。進藤新初段が塔矢くんの許婚であることは、お父上の塔矢先生からうかがっているよ。だが、考えてもみてくれ。プロとして正式にデビューする前から、あんなにファンがつくなんて、めったにあることじゃない」

「そうそう。低迷する碁界に活気をもたらす人物として、彼女ほど適任な人物は、他にいないんだよ」

「韓国や中国に差をつけられるばかりの昨今、日本囲碁界には若い力が必要なんだ」

「そのためには、彼女に広告塔になってもらって、一大ブームをしかけるのが一番だ」



 つまり。

 ヒカルを日本棋院のキャンペーンガールとして起用し、囲碁愛好家人口を増やそうというのだ。

 イベントや指導碁の参加者が増えれば、棋院の財政は豊かになる。

 そうすれば、諸外国の愛蔵家のもとに散らばった、古い資料を日本へ買い戻すことができる。

 囲碁先進国の名を譲って久しい韓国へ、若手棋士を研修に出すこともできる。

 それに、ヒカルに惹かれて、新たに碁を始めるこどもたちが、将来の碁界を背負ってくれるであろうことも、容易に想像がつく。

 すべて、囲碁の発展のために必要なことがらだ。



 自分の未来の花嫁が、テレビCMや雑誌やポスターで、不特定多数の人間に笑顔をふりまくなど、当事者であるアキラにとって、まったく賛同できることではないが、ひとりの棋士として、彼らの言い分はよく理解できた。

 しぶしぶながら、承諾するしかないと、アキラは自分に言い聞かせていた。

 だが、論点はそこではなかった。

「だからって…。なぜ、ボクとヒカルの関係を黙っている必要があるんですか!」

 まだ棋院関係者のごく少数しか知らないのを、これ幸いと、塔矢アキラと進藤ヒカルが許婚同士であることを、伏せておく方針が言い渡されたのだ。

「「「「そりゃあ、アイドルに恋愛はご法度だからに決まってるだろう。『恋人募集中でーすv』は、基本中の基本だよ」」」」

 声をそろえて答えるお歴々に、アキラはがっくりと肩を落とした。

 このままでは、ふたりの間柄は日本棋院のトップシークレット扱いとなってしまう。

 そうなれば、ヒカルに横恋慕する不逞の輩が出てこないとも限らない。

(いや、絶対に出てくる! 世界一かわいいヒカルに恋をしない男なんて、いるわけがない!)

 アキラは、一度は落としたはずの肩をあげなおし、大先輩であるはずのお歴々をキッと睨みつけた。

「ヒカルを広告塔に…というお話は、100億歩譲って承諾しましょう。ですが、ボクたちの関係を伏せることは了承できません!」

 きっぱりと言い放つと、アキラは部屋を出ていった。

 棋士会長がまだ何か叫んでいたが、アキラは聞く耳を持たなかった。







 アキラは拳を握りしめ、足早に廊下を通り抜けた。

 記者室の前を過ぎ、エレベーターに乗り込む。

 棋院会館を出て、坂道をくだり、地下鉄の改札口へと向かう階段の手前で、アキラは足をとめた。

「今日のうちに、ボクとヒカルの関係を、日本中に知らしめてやる…!」

 新春の晴れた空に向かって、アキラは熱い胸のうちを明かすのだった。



 新初段シリーズじたいがフィクションですから、もうなんでもアリですよね?

 ちなみに、地下鉄市ヶ谷駅で空を仰いだのは、管理人の実体験です。

 ただ、くしゃみが出ただけです。←そんなとこからネタを拾ったのか、おい


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