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『U・H・P』 ー日本棋院の七不思議ー

  


UHP 【ゆー・えいち・ぴー】

「嘘八百」の頭文字を取ったもの。

書簡や記事などの内容がフィクションの域を大きく逸脱し、誰の目にも捏造であることが明らかになった状態を表す。

赤文字で表記した場合、「真っ赤なウソ」という意味になる。

社会での認知度が極めて低い表現であるため、使用には慎重を要し、とくに、同人誌のタイトルへの使用は控えることが望ましい。

       がびがび雑学辞典第二版第4刷(増補)1192ページより抜粋




第三回 「珍奇! 必ず白が勝つ碁盤」



 伊角慎一郎・本田敏則・門脇龍彦――――。

 入段当時、「アダルト三人組」と称された彼らは、今でも、よく一緒に行動している。

 今日は、三人で、棋院会館の地下にある囲碁殿堂を訪れていた。

「俺、ここに来るの、初めてなんだよな」

「俺も俺も」

「俺は二度目です。だけど……前に来た時と比べて、ちょっと内容が変わったみたいだな」

 三人のうち、囲碁殿堂に来たことがあるのは、伊角だけのようだ。

 彼の言うとおり、囲碁の歴史を紹介したポスターを中心とした展示物は、ほとんど入れ替わっていないが、碁笥や碁盤には、多少の増減がある。

「あっ、これって……」

 ガラスケースのなかの碁盤を見て、本田が声を上げた。

「この碁盤がどうかしたのか? なになに、篠田九段寄贈? 誰だ、篠田九段って」

「ああ、門脇さんは院生出身じゃないから知らないんだ。院生師範の篠田先生」

「俺も伊角さんも、和谷も進藤も越智も、院生時代には、みんな篠田先生の世話になったんっスよ。…………それにしても懐かしいなあ、この碁盤」

 伊角と本田は、ガラスケースのなかに鎮座されている碁盤に見入った。

 材質は桂だろうか。日に焼けて少し黒ずんではいるが、なんの変哲もない、ごく普通の碁盤である。

「院生試験のとき、受験生は三子置いて、この碁盤で打つんだけど、勝てたヤツは、過去に一人もいないんだ」

「今になって思えば、院生師範相手に、三子で敵うわけがないのにな」

 当時を懐かしむ二人に、門脇が、「……いいや、わかんねえぞぉ」と、ニヤリと笑った。

「きっと、白を持ったヤツしか勝てない、特別な碁盤なんだよ。院生になろうっていう鼻っ柱の強いガキに、身の程をわきまえさせるには、もってこいだ」

「なるほど、そうか! だから、篠田先生が院生師範をやめたあと、一般対局に使うわけにもいかなくて、ここにしまってあるんだな」

 誰が聞いてもネタまるだしな門脇の言葉に、本田が、わざとらしく食いついた。

「二人とも……何をバカなことを」

 盛り上がる門脇と本田を尻目に、真面目が服を着て歩いているような伊角が、呆れた顔で肩をすくめる。

「まったく。ノリが悪いなあ、伊角くんは」

「こういうときは、「必ず白が勝つ碁盤で黒を持たせるなんて、篠田先生もひどいよな」くらい言わなきゃ」

「そうかな。じゃあ……必ず白が勝つなんて、おもシロいな?」

 …………やはり伊角は、ノリが悪かった。




 そんな三人の会話に、物陰から聞き耳を立てる者がある。

「なるほど。必ず白が勝つ碁盤か……」

 小さな手帳をひらき、鉛筆の先端を舐めながら、何かを書きつけていたのは、他でもないK・Y氏であった。



 これさえあれば、百戦百勝!

 必ず勝てる魔法の碁盤!

 日本棋院は、棋神が宿ったとも、勝利の女神の祝福を受けたとも言われる伝説の碁盤を所有している。

 しかし、白石を持った者が必ず勝ってしまうため、対局に使うことはできず、棋院会館地下の囲碁殿堂の奥深く、厳重に保管されているという。




 何気なく立ち寄った売店で「GO☆コミュニケーション」を立ち読みし、この記事を目にした三人は、顔色をこれ以上なく蒼白にして、そそくさと立ち去ったという。



                                        第3話 完



 2008年6月のイベントで配布した無料本のリサイクルです。

 


 2009年1月29日