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『U・H・P』 ー日本棋院の七不思議ー

  


UHP 【ゆー・えいち・ぴー】

「嘘八百」の頭文字を取ったもの。

書簡や記事などの内容がフィクションの域を大きく逸脱し、誰の目にも捏造であることが明らかになった状態を表す。

赤文字で表記した場合、「真っ赤なウソ」という意味になる。

社会での認知度が極めて低い表現であるため、使用には慎重を要し、とくに、同人誌のタイトルへの使用は控えることが望ましい。

       がびがび雑学辞典第二版第4刷(増補)1192ページより抜粋




第一回 「自動販売機の怪!」


 匿名棋士からの情報をもとに調査を進めた結果、日本棋院会館にあるタバコの自動販売機で、特定の銘柄のタバコを購入しようとすると、二分の一の確率で、異なる銘柄のタバコが出てくることが明らかになった。

 一説によると、合い言葉を言えば高確率で正しい銘柄のタバコが出てくるともいう。

 有力な情報筋から秘密裏に合い言葉を入手し、本誌記者が実際に試してみたが、確率は二分の一のままだった。

 他に何か必要な儀式があるのだろうか。

 謎は深まるばかりだ。





「あちゃぁ……載っちゃったよ」

 ここは、棋院会館の二階売店。

 日本一軟派な囲碁雑誌『GO☆コミュニケーション』を立ち読みしていた進藤ヒカルは、特集記事のページをひらいて、頭を抱えた。

 ページの見出しには、「囲碁の総本山・日本棋院会館の七不思議に迫る! 今明かされる驚愕の事実とは!?」とある。

 雑誌の顔ともいえる巻頭特集に、こんな記事を持ってくるとは。

 最軟派の看板を背負うに値する、ある意味、勇気ある編集方針だと言っていいだろう。

「まさか、ほんとに記事にするなんてなあ」

 ヒカルが、少々バツの悪い顔でつぶやいていると、「やあ、進藤」と、無駄にさわやかな声で呼びかけられた。

「あ、塔矢」

 振り返れば、エレベーターのほうから、ライバル兼恋人の塔矢アキラが近づいてくるのが見えた。

 二人は十六歳のとき、雑誌の取材をきっかけに交際を始め、すでに四年の歳月が経とうとしている。

 ちなみに、その雑誌というのが、「GO☆コミュニケーション」だったりする。

 本来ならば、縁結びの立役者に対し、謝辞のひとつくらい言ってしかるべきところではあるが、空気の読めない記者K・Y氏から被った数々の被害を鑑みれば、プラスマイナスゼロだ。もしかしたら、マイナスに傾くかもしれない。

「何をそんなに熱心に読んでいるんだい?」

 アキラは、ヒカルの肩に手を置いて、雑誌を覗き込んだ。

「それがさあ……。こないだの自販機の話、記事にされちゃったんだよ」

 困惑気味に眉を下げ、ヒカルは、アキラにもよく見えるように雑誌を差し出した。

「二分の一の確率で異なる銘柄のタバコが出てくる……ああ、桑原先生の悪戯の話だね……って。本当に、こんなことを記事に?」

 アキラは、呆れたように目を瞬かせた。

 アキラの言う「桑原の悪戯」とは、こうだ。

 棋院会館の自動販売機の補充は、タバコも清涼飲料水も、設置した業者の定期巡回によって行われるが、桑原は、現役本因坊の肩書きを振りかざして、タバコの補充に来る業者に無理難題を押し付けたのだ。

 曰く――――。

「LA●Kの棚には、一つ置きに違う銘柄のタバコを入れておくように」

 全部ではなく、一つ置きであるところに、いやらしい桑原イズムが垣間見える。

「いくら『GO☆コミュニケーション』だって、一応、囲碁雑誌じゃん? こんなバカ話を記事にするなんて、本気にしてなかったからさ。オレ、結構でたらめ言っちゃったんだよなあ」

 桑原が一つ置きにLA●K以外のタバコを入れるように仕掛けていたのは事実だが、合い言葉云々というのは、ヒカルの作り話らしい。

「CMで見たことあったから、K・Yのヤツも知ってると思って、シャレで言ったんだよ。自販機の前で『すぴーくらーく!』って呪文を唱えたら、正しいのが出てくるって」

 ヒカルは、ぽりぽりと頬を掻いた。

「なるほど……。それで、緒方さんが……」

 アキラが、合点がいったという顔で頷いた。

「え? 緒方先生、どうかしたのか?」

「先週のことなんだけどね。タバコの自動販売機の前で、ボタンを押す前に、緒方さん、何かつぶやいていたんだよ。そのあと、「唱えるタイミングが間違っているのか?」って、首を傾げていたんだ」

「うそっ。マジで!?」

「ああ。試したみたいだよ」

 緒方二冠、自動販売機の前で呪文を唱える――――。

 このほうが、記事としてはずっとおもしろいかもしれないが、それはさておき。

「うわあ。オレがネタ元だってバレたら、緒方先生にゲンコツで頭グリグリされちまうかも」

「緒方さん、今日、何かの打ち合わせで棋院に来てるよ。もうだいぶ経つから、そろそろ降りてくるんじゃないかな」

「やっべえ。こうしちゃいられねえ」

 ヒカルは、立ち読みしていた雑誌を棚に戻すと、アキラをその場に残し、脱兎のごとく、棋院会館から逃げ出したのだった。

 せっかくの仕掛けをバラされた桑原が、ヒカルに報復したのと、桑原の悪戯を知りながら緒方に黙っていた(しかもいんちき呪文の情報まで流した)ヒカルに、緒方がゲンコツで頭グリグリの刑を執行したのと、どちらが先だったかは、それほど重要なことではないので、ここでは割愛しておく。


                                        第1話 完



 2008年6月のイベントで配布した無料本のリサイクルです。

 リクエスト駄文から派生したお話ですので、よろしければ原著(って言っていいのか疑問)もどうぞ。→こちら


 2009年1月6日